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横浜家庭裁判所 平成9年(少)1770号 決定 1997年5月06日

少年 S・N子(昭和58.6.23生)

主文

本件を神奈川県中央児童相談所長に送致する。

理由

(ぐ犯事由及びぐ犯性)

少年は、平成8年4月に中学に入学したものの、同年5月ころから深夜外出を繰り返し、いわゆるテレホンクラブなどを通じて知り合った男性らと交遊して性関係などを持ち、実母の再三の指導にもかかわらず、その生活を改めようとせず、同年6月24日、児童相談所に一時保護され、同年7月15日、無断外出して同年8月下旬ころまで家出し、同年10月31日、再び児童相談所で一時保護され、同年12月25日に帰宅したものの、平成9年2月10日、再び家出した。少年は、こうした家出期間中、テレホンクラブなどで知り合った男性宅などを転々とし、カジノ関係者や偽造テレホンカード密売人、元暴力団関係者らと交際し、カジノなどの賭博に興じたり、偽造テレホンカードを譲り受けて使用したり、売春をしたりするなどしていた。少年は、このように、保護者の正当な監督に服さず、正当な理由がなく家庭に寄り附かず、犯罪性のある人や不道徳な人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖があるものであって、このまま放置すれば、その性格及び環境に照らし、将来、偽造有価証券行使、賭博などの罪を犯すおそれがあるものである。

(法令の適用)

少年法3条1項3号イ、ロ、ハ、ニ

(処遇の理由)

1  一件記録によれば、少年の生活歴及び行動歴並びに家庭環境について、以下の事実が認められる。

(1)  少年の実母は、少年を出産する直前に、少年の実父と協議離婚し、以後、祖父母宅に同居して少年を育ててきた。

少年は、幼少のころより、バレエ、ピアノ、茶道、華道、日舞などの稽古事に励み、小学生のときには、中学受験を目指して進学塾に通い、第1希望の学校には不合格となったものの、○○中学に合格し、平成8年4月、同校に入学した。

実母は、少年が小学生のとき、少年を祖父母に預けて再婚・離婚したり、婚約したものの結婚には至らなかったりしたが、平成7年8月ころ、現在の内縁の夫と知り合い、交際するようになった。

少年は、中学入学後まもなく、実母から、次は高校受験だと言われたことなどをきっかけに、実母の期待に応えるために努力し続ける生活の息苦しさや実母の男性関係に対する反発から、実母に反抗するようになった。そして、同年5月ころから、深夜に外出して、いわゆるナンパで知り合った男子や、いわゆるテレホンクラブを通じて知り合った男性らと交遊するようになった。これを知った実母が、少年に対する監督を強化しようとすると、少年は、反発を強め、行動を激化させ、「死んでやる」と包丁を持ち出すようなこともあった。同年6月中旬、実母は、祖父母宅の近くにアパートを借り、内縁の夫と少年と共に暮らし始めたが、母子間の葛藤は収まらなかった。

こうした状況の中で、実母が警察に相談を持ちかけ、同年6月18日、神奈川県中央児童相談所による指導が開始された。少年は、同年6月24日、児童相談所の一時保護所に入所したものの、同年7月15日、同所を無断外出してそのまま家出状態となり、同年8月下旬、祖父母宅に帰宅した。家出期間中、少年は、テレホンクラブを通じて知り合った成人男性の家などを転々とし、偽造テレホンカードの密売人やテレホンクラブ関係者らと交際して、偽造テレホンカードを使用したり、お金を得るために売春を行ったりしていた。

少年は、帰宅後も、学校を休んだり深夜外出したりするなど、生活は落ち着かず、実母との対立は激しくなるばかりで、「死んでくれた方がいい」「死んでやる」といったやりとりがなされるような状況であった。少年は、同年10月31日、再び児童相談所の一時保護所に入所し、同年12月25日、帰宅した。少年は、平成9年1月初旬、何もかも嫌になった気分を紛らわそうとして、友人からシンナーを手に入れて吸入するなどしたが、その後は、中学のスキー教室に参加するなど学校の行事に出席し、同年1月は休まず通学した。しかし、母親との対立が深刻化し、同年2月10日、再び家出した。家出期間中、少年は、20代前半の男性の知人の家を転々とするなどし、こうした男性と性関係を持ったり、カジノや競馬などの賭事をして遊んだりしていた。同年4月8日、少年が児童相談所に連絡を入れ、「27歳男性と暮らすつもりである」などと述べたのを契機に、本件観護措置がとられた。

(2)  少年の実母(昭和29年生)は、服飾関係の短期大学の講師をしており、現在、建設会社勤務の内縁の夫(昭和21年生)と同居している。

実父は、実母と離婚後、5年前に再婚したが、少年の他に子供はいない。少年とは、誕生以来一度も会ったことはなかったが、毎月3万円の養育費を送っており、本件観護措置期間中に、仙台から横浜少年鑑別所に面会に訪れ、少年を実父宅に預かることも可能であると少年に述べている。実父の再婚相手も、実父から少年のことを聞いており、少年を預かることには協力的な様子である。

少年の実母方祖父母は、実母らが平成8年6月中旬に祖父母宅を出るまで、実母及び少年と同居し、少年の養育に当たってきた。少年が実母宅に移ってからも、少年の部屋は確保されており、少年の居住が可能な状態である。しかし、祖父母と実母の仲は、必ずしも円満ではなく、また、祖父母は共に高齢(共に73歳)であって、中学入学以来の少年の生活及び態度の変化を理解できず、拒否的な構えを強めている。

2  本件鑑別結果によれば、少年の資質及び性格について、以下のような点が指摘されている。

少年は、集団知能検査では中領域にあるものの、その理解力や表現力は潜在的に高いものが窺われる(小学校ではクラスのリーダー的存在であり、また、中学校においても、着実に学習を進めれば相応の成績が修められると評価されている)。

少年は、感受性が強く、負けず嫌いであって、自分なりの正義感や責任感を持ち、真面目なところがある反面、基本的なものの見方や行動の仕方が自己中心的で、自分の思うとおりにならない状況ではわがままさが表面に出て、周囲と衝突する。また、感受性が強く、情緒豊かである反面、感情統制力が弱いこともあって、些細なことで動揺し、大きな障害にぶつかると瞬時に思い詰めて希死願望を抱くなど気分の安定性に乏しく自棄的になりがちである。

そして、生育環境や母親との葛藤もあって、家庭内で満たされなかった愛情欲求や承認欲求を家庭以外の場で満たそうとして、友達づきあい、特に甘えを受け入れ、優しくして貰えそうな年長の異性の友人を求める気持ちが強い。

鑑別所入所当時は、鑑別所から出してほしい、出してくれないなら殺してほしい、何もかも嫌になったから死んでしまいたいなどと言い、食事もとらず、夜間になると泣くなど不安定な状態であったが、これは状況依存的な心因反応であって(脳波異常なし)、病的な偏りとまではいえない、と診断されている。

3  少年は、上記のように、義務教育期間中の中学生でありながら学校に通学せず、家庭にも落ち着けず、家出をして成人男性宅で生活し、犯罪性のある人間と交際したり不特定多数の男性と性関係を持つような生活を続けており、このままでは、少年が犯罪の被害者になる危険性も高いにもかかわらず、少年自身はそうした危機意識が薄く、自己の生活を改めようとする気持ちに乏しく、要保護性は高い。

しかし、不安定な生活をしながらも、少年自身が犯罪行為に手を出すことは避けようとする気持ちがあり、本件におけるぐ犯性は極めて弱い。また、少年の上記のような逸脱行動は、少年の性格上の問題性とともに、実母との葛藤が大きな原因となっており(一件記録や本件調査結果、当審判廷での態度などからすれば、実母自身、感情統制力や自制心に乏しく過剰な反応をしがちな面が強い)、少年の問題行動は、少年の非行への親和性を示しているというよりは、家族間・家庭内の問題としての性格が強い。少年が、今後、中学生としての健全な生活を取り戻し、心身の健全な成長を図っていくためには、本人が心理的に安定してゆける場を見つけることが不可欠であるが、この点、本件観護措置中の面会などを通じて実父との接点ができたことが有力な手掛かりになるものと思われる。

したがって、少年の今後の心身の健全な成長のためには、教護院に入所させてその性向を改善したり、養護施設に入所させる前に、今一度、実父も含めた家族間の調製を図り、少年が安定できる居場所を確保するとともに、少年の自発的な生活改善意欲を促すことが検討されるべきである。

4  以上のように、本件における少年のぐ犯性は極めて弱いことに加え、少年の生活歴、行動歴、資質及び性格、家庭環境、その年齢及び心身の発育状況にかんがみると、少年を児童福祉法上の措置にゆだねることが相当と認められる。

よって、少年法23条1項、18条1項により、主文のとおり決定する

(裁判官 鬼頭容子)

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